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MAGCHIMERA WARTIME 12
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角膜泥棒
2004年02月13日発行
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CONTENTS
▼ 角膜泥棒
▼ 日本の臓器移植法と「角膜泥棒」
▼ 「角膜泥棒」をめぐって
はじめに
想像して欲しい。もしあなたに幼い子どもがいれば、自分の息子や娘のこととして、そうでなければ甥や姪や親しい子どものこととして。わたしは、1週間前に8歳になった息子のこととして想像しよう。
ある朝、いつもと少しも変わらないある朝、いつも通りに登校した8歳の男の子が行方不明になった。心配した母親の気持ちをくんで村中総出で捜索した結果
、3日後、男の子は村近くの排水溝で見つかった。生きてはいた。ハッピーエンド?
今号マグキメラには「イラク」も「自衛隊」も「戦争」も出てきません。舞台となるのは(距離的にも気持ちの上でも)遠い遠いニカラグアです。何かの支援を呼びかけるものでも意見を述べるものでもありません。移植医療という倫理的にもむずかしい問題を含んでいるため、実はわたし自身、まだなんの結論も出せずにいます。
差し出す側にたつか、受け取る側にたつか、いずれにせよ、自分のこととして、あるいは自分に近しい子どものこととして考えていただけたらと思います。
筆者の中マロさんは、わたしがイギリスで企画運営している「湾岸戦争の子どもたち」写
真展のチームメイトです。マグキメラ1号と2号に原稿を提供してくれたときには中マダムという筆名でしたが、彼女がまず自分のウェブ日記の中である問題を提起しました。これに対して関西在住の法学生Yosujyayaさんから参考となる情報が寄せられました。そして最後に中マロさんとわたしのメールのやりとりを掲載します。繰り返しますが、ほんとに何の結論もありません。ただ知って欲しい。伝えたい。それが今号の編集方針です。(藤澤みどり)
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中マロの英国村日記 戦中篇 03
「角膜泥棒」
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http://plaza.rakuten.co.jp/multi/diaryold/20040123/
今日、ある記事を読んでいて衝撃で吐きそうになった。Organ Trade(臓器売買)に関する報道だ。噂話では無く事実だ。
ニカラグアの農村で8歳の少年が登校途中に行方不明になった。村人達の捜査のかいもなく3日が過ぎた後、少年は村の近くの排水溝で発見された。
生きていた。
が、両目を「盗まれていた」。
弱々しい泣き声を聴いた通行人に発見された時、少年は血を流しながら苦痛の中でうずくまっていた。その後の経過は記事には詳しく書かれていなかったのだが、この衝撃から心をずたずたに裂かれた少年に母親もどうしてよいかわからず、結局、少年は盲人の為の施設で暮らす事になった。
その施設の少年達の「半数以上」が、生まれつき、あるいは病気で失明したのではなかった。この少年と同様に誘拐され、文字通
り目をえぐり取られたのだ。「高価な商品である角膜」を盗まれたのだ。
昨年末、こんな報道も読んだ。フランスの難民キャンプで医師が気付いた。アフガニスタン等からキャンプにたどりつく難民達の中に片目を失った子供達の数が増えている。無事、目的地にたどりつくための代償として、角膜や臓器を提供させられているのではないかという・・・。
インドでは貧困であえぐ人々が腎臓、角膜だけでなく下肢(骨や皮を使用する)までも売っている。もちろん、インドでは臓器売買は禁止されているが、法律に抜け穴があった。臓器の提供は親戚
間だけではなく「非常に親密な友人間」でも法律で許可されているため、全く無関係な臓器の提供者と買い取り主が裁判で「長年の友人」と宣誓すれば「売買」は成立する。
英国でも、昨年末、こんなニュースが騒がれた。障害を持つ幼い子供を抱えた父親が、専門の私立校で子供を教育させるために必要な(公費での補助を拒否された)高額な学費を捻出しようとネット・オークションに自分の臓器を出したのだ。オークションサイト側から取り下げられるまでの間に米国で高値がついた。
子供という弱者から「正気で」目をえぐり取るような心を作った社会。「持つ者」が生き残り「持たざる者」は生き残るために自らを傷付けざるを得ない社会。悲劇から残酷な金を絞り取る病んだ心を生んだ社会。そんな社会への暗澹たる哀痛の中、「医学の進歩」という言葉が浮かんだ。
私は医学の進歩を肯定的に捉えている。医学の進歩が無ければ、次男の顎の畸形も治せなかった。手術を受けられず、口を開けれないまま、成人できるのか、たとえ成人しても、どんな苦痛(肉体的・精神的)があるのか、どの程度健康なのか・・・全くわからない。次男も、そして私達家族も幸運だった。私達の生まれた国、そして、生きている時代が幸運をもたらした。
臓器の移植を可能にしたのは医学の進歩だ。臓器ではないが次男だって「移植」をしている。自分の肋骨と耳の軟骨を顎に与えたのだ。それを可能にしたのは臓器の移植を可能にした医学の一歩手前の技術かもしれない。
もちろん、他人の臓器を移植する事と、自分の体の骨や皮を移植する事との間に存在する莫大な差の克服は当時の医学の飛躍的進歩であったに違いない。そして、その医学の進歩によって多くの命が救われている。同時に、臓器移植が可能でなければ臓器が売り買いの対象となる事もなかった。少年の目が金銭の為に奪われる事もなかった。
医学の進歩が直接の原因なのではない。とどのつまりは人類の心の進歩が医学の進歩に付いて行けなかったのだ。
先週、クローン妊娠成功の報道も読んだ。不妊治療技術の最先端との事だ。生命がともったからには無事に生まれてほしいと祈っている。ただ、近年の不妊治療技術のめざましい進歩にはどうしても戦慄感を覚えてしまう。
私は自分の子供達を愛している。疑問の余地の無い本能的な愛情だ。子供に恵まれない人が子供を欲しがる感情も、疑問の余地の無い本能的な感情なのではないかと思う。だから子供を望む人達に希望を与える医学の進歩は全面
的に肯定している。だが、その進歩に、どこまで人類の心が追いつけるのか・・・。仮に、この不妊治療技術の悪用は一切考えず、善意を持つ人達の間で純粋な善意のもとに行われた人為的妊娠・出産のみを考えることにする。
例えば、非配偶者間人工授精に関する規制は、肝心の生まれて来る子供達の事まで考えているだろうか? 提供された精子や卵子により生まれた子供達が、その精子や卵子の提供者である「親」を知る権利を持たない状況のもとで、子供達の心が、どれだけ重視されていると言えるんだろうか?
医学の進歩に人類の心の進歩が追いつく事は無いかもしれないという深い絶望感と、人類の心そのものに対する漠然とした不安・懐疑心・・・。そして、今私の生きる暴力による悲劇の絶えない社会のどこにその不安を解消させてくれるような要素があるんだろう?
医学の進歩という灯かりが人類の心の中に広がる深い闇を照らし出してしまった。パンドラの箱と同じかもしれない。でも、希望は、あるんだろうか? そして、灯かりを持つ者は、いったい、どうしたらいいのか?(2004年1月23日記)
【中マダム改め手結川中マロ(てぇむずがわ・ちゅうまろ)プロフィール】
英国に棲息する事17年、中国人の夫と男児ふたりとともに英国某都市近郊の村で隠居中。略称:中マロ、旧称:中マダム・BHマダム、プロの暇人。英国から多言語(日・中・英)多文化・闘争・ゴシップの日々を謹んでお届けします。
【ホームページ 手結川宮家雑記帳】
http://plaza.rakuten.co.jp/multi/
【改名前の「中マダムの英国村日記」バックナンバー】
中マダムの英国村日記 戦中篇 01
http://www.chimerafilms.co.uk/children_mag01.html#madam
中マダムの英国村日記 戦中篇2
http://www.chimerafilms.co.uk/children_mag02.html#madam
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日本の臓器移植法と「角膜泥棒」
BY Yosujyaya
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この日記を拝見して思ったことなのですが、これは日本にも関連する問題だと思います。
なぜかというと、日本の臓器移植法では「15歳以下の子供からの臓器提供は認められない」「本人の生前の書面
の意思表示+家族の同意が必要」などのキビシ〜イ要件があり、臓器移植法が成立して6年経つのに、日本では脳死移植が行われたのはわずか26件。そこで日本での臓器提供の「需要」の不足が、海外の子供が被害に遭っている可能性もあるんじゃないか、とふと思ったからです。
特に日本で心臓移植の必要がある子供がいる場合、心臓は大人からの移植がサイズ的に無理なので、心臓移植手術は日本国内では行なえず海外で行うしかありません。そこで日本人の子供の心臓移植手術は、海外、特に5%ルール(脳死者から提供される移植用心臓のうち5%は外国人に提供しなければいけないというルール)を採用するアメリカで行われることが多いのです(*注参照)。が、アメリカへの渡航費用などを合わせると手術の費用は1億円以上するので、金持ちの親を持つ子供の方がより有利に移植手術を受けられるという、「カネで生死が分かれる」事態が起きているのです。
もちろん普通はカンパなどで賄うのです。日本ではカンパでも資金は集められます。が、日本以外の国ではそんなにカンパが受けられるはずもなく、結局アメリカでの5%ルールの「外国人」は、資金力がある日本人とイコールに近い形になっているそうです。
脳死臓器提供は、世界中の人たちが限られたパイを分け合う形になるのですが、こうなると国内での移植手術が難しく資金力が豊富な日本人がパイを多くとる形になり、結果
的にこういう貧しい国の子供たちに影響を及ぼしている、とも言えるのではないでしょうか。
日本でも賛否両論がありますよね。
確かに脳死を一律に死とするのは、生前の本人の意思や家族の感情に反するならやめるべきですが、脳死になられた本人が強く臓器提供を望んでいる場合も、日本では臓器カードの些細な記載漏れなどによって臓器提供が行われない、などの事実があります。もう少し、柔軟に対応できるようにして、せっかくの善意を無駄
にしないよう、日本での臓器移植の現状の改善をはかるべきだと思います。
ちなみに、アメリカでは「日本でも臓器移植法があるのだから、日本の子供の心臓移植は国内で賄うようにしてほしい」という意見が多くなってきているそうです。
でも、臓器提供は、基本的に、提供する側の博愛心が要求されるもの。社会的なモラルが低下してきている今、「やりたい人が勝手にすればぁ? 私には関係ないしぃ」という人が多いと思われるので、いくら法整備や医療制度が改善されても、果
たして脳死における臓器提供が増えるのか?というのはかなり疑問です。カードを置いている箇所も最近見かけないし、運転免許を取得する時に臓器提供カードを配り、脳死になった場合に提供する意思があるかないかをはっきりさせるよう義務付ける、などの措置をとり、移植についての意識を高める策をとった方が良いのではないか、と思います。(2004年1月27日記)
*5%ルールについて・・・「5%ルールは、『日本の論点2003』という本の、 北村惣一郎氏という心臓外科医の方が書いている論文で知りました。(Yosujyaya)」
【Yosujyaya(ヨスジャヤ)プロフィール】
関西地方に在住。仕事の傍ら、『法律家の卵の卵』として勉強中だったが、4月から大学院生として学生の身分に復帰。「脳死移植問題については、学生時代に法律討論会をやった時にテーマになったのと、ロースクール入試の勉強の一環として小論文を書いたりしましたので日ごろから興味を持っていました」。
【ホームページ Dairy“素”Yosujyaya】
http://plaza.rakuten.co.jp/yosujyaya135/
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「角膜泥棒」をめぐって おしゃべり
by中マロ&みどり
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みどり / 日記への書き込みの中で「まびき」についてふれたものがあったけど、すでに育った子どもの臓器を売買するというのは「まびき」とは根本的に問題が違うと思う。同じく貧困が原因ではあっても、ビジネスが絡んでいる点がまったく違う。せいぜい、娘を郭に売るというのが少し似てるか、それだってだいぶ違う。貧しさによってモラルが崩壊したのではないように思う。それともこれも新しい儲け口のひとつ?
中マロ / わたしも違うと思う。間引きっていうのは、親が子を自分の所有物とみなす考え方から来てるし、そもそも、モラルが低いから間引きするんじゃなくて間引きしなければ生存できないという貧困があったわけだし。貧困とモラルは結びつかない。中国なんて貧しい時代の方がモラルは高かったともいえるよ。社会の中で貧富の差が激しくなればなるほどモラルは危うくなるし。
実は、Yosujayaさんのコメントを見て、どきっとした。ひょっとしたら、あの盗まれた角膜が日本人に使われているかも・・・って。場所的に最初はアメリカか・・・って思ったんだけどね。韓国でも誘拐が増えてるっていうのにも驚いた。
それから、これ、自分や自分の子供の臓器を売買してるわけじゃなくあくまで、他人の子供の臓器を盗んでるわけだよね。しかも、殺人未遂でしょ。発見が遅かったら、この子だって死んでたはず。実際に犯行を犯した末端の人間は、おそらくまだ子供のいない様な若者なんじゃないかとも思うんだ。そう思いたい。でも、上の方で指示してる人間は家庭持ちかもしれない。ただ実際に手を下すわけじゃないから想像ができない。悪い事を考え付く人間と、実際に犯行する人間が同一じゃない。だからこそ、成り立つ犯罪なんじゃないかと思う。戦争政策と似たところがあるな〜。モラル以前に尋常な想像力が欠如してるんだよね。
みどり / これは角膜だからちょっと違うかもしれないけど、内臓の場合、オリエンタルはオリエンタルの臓器のほうが拒否反応が少ないから、日本人への臓器移植はオリエンタルからのものが多いとかなんとか、前に読んだことがある。(うろ覚え)
もしも「貧困でモラルが崩壊する」のだとしたら、とりあえず産んでおいて、ある程度育ってから全部の臓器を高値で売る、という、いま自分で書いていておぞましくなってきたけど、そういうこともあり得るよね。人間をパーツだけで見ると。それとも、貧困家庭から子どもたちを買い取って、子ども内臓牧場で育てるとか。
中マロ / すげ〜よ〜、その想像力。ひょっとして、ひょっとしたら、生活物価の安い国で、そんな事が可能になるかもしれないよ。実際にさ、養子管理の甘い国では、孤児院から引き取った子供や生まれたばかりで養子に出された子供の臓器を・・・って事も考えられるかもしれないじゃん? これは、もう、実際に起きているのかも。だから、養子縁組の規制が非常に厳しくなってる・・・。
*テキスト「角膜泥棒」はイギリスの婦人誌「Real」1月20日号掲載の記事(臓器売買に関するドキュメンタリーを制作したKate
Blewettへのインタビュー)を発端に書かれています。
*上記ドキュメンタリーの放映予定
イギリス 「臓器売り出し中(Organs for sale)」 by Kate Blewett
2月29日午後9時 Discovery Channel
3月4日午後9時 Channel 4
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MAGCHIMERA WARTIME 12
2004年02月13日発行
【編集・発行】藤澤みどり
midori@dircon.co.uk
【melma ID】m00101856
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